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東京高等裁判所 昭和50年(ネ)2277号 判決

控訴人(原審原告) 橘武雄

右訴訟代理人弁護士 斎藤稔

被控訴人(原審被告) 佐渡搾油株式会社

右代表者代表取締役 和田栄藏

右訴訟代理人弁護士 伊丹経治

主文

一、原判決を次のとおり変更する。

1、被控訴人は控訴人に対し三〇万円及びこれに対する昭和四四年八月一日から支払いずみまで日歩二銭六厘の割合による金員を支払え。

2、控訴人のその余の請求を棄却する。

3、訴訟費用は第一、二審を通じてこれを二分し、その一を控訴人の、その余を被控訴人の、各負担とする。

二、この判決は、控訴人勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一、申立て

(控訴人)

一、原判決を取消す。

二、被控訴人は控訴人に対し六〇万円及びうち三〇万円に対する昭和四四年八月一日から、うち三〇万円に対する昭和四五年八月一日から、それぞれ支払いずみまで日歩二銭六厘の割合による金員を支払え。

三、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

四、二項につき仮執行の宣言。

(被控訴人)

控訴棄却。

第二、当事者双方の事実上の主張及び証拠の提出、認否、援用は、次に付加し、訂正するほか原判決書事実欄摘示のとおりであるから、これを引用する。

一、主張

(控訴人)

1、原判決摘示の請求原因(一)の事実に次のイないしハを付加する。

イ、右請求原因(一)の消費貸借契約における返還約束は、被控訴会社代表者和田栄藏と控訴人との間で締結され、控訴人が現金を被控訴人の事務員嶋元チヨに交付したものである。

ロ、右消費貸借契約締結については、商法二六五条による被控訴人の取締役会の承認を受けている。

ハ、被控訴人は、請求原因(一)の(イ)の貸金の利息および昭和四四年七月三一日までの遅延損害金ならびに同(ロ)の貸金の利息および同四五年七月三一日までの遅延損害金を支払った。

2、被控訴人の抗弁に対する認否

被控訴人の後記主張1のイないしハを争う。仮に被控訴人主張の如く委託契約がなされていたとしても、和田栄藏個人は損益を受けるに過ぎず、被控訴人から独立した人格者ではない。営業主は被控訴人であり、従って本件貸借の権利義務の主体も被控訴人である。

(被控訴人)

1、抗弁

イ、名板貸

被控訴人は、昭和四二年一二月末頃か同四三年一月に、訴外和田栄藏(当時被控訴人の代表取締役)との間で、和田栄藏が、(一)、対外的には被控訴人名義による営業を、(二)、対内的には和田栄藏個人の損益計算で、(三)、昭和四三年度(一月一日から一二月三一日まで)から同四七年度まで五年間、(四)委託料年五万円として個人経営をなし、(五)、昭和四七年度末に昭和四二年度末現在の資産状態で、右営業を返還することを主な条項とする委託契約(名板貸し契約)を締結し、仮契約書を作成して、和田栄藏は同四三年度から営業を始めた。

ロ、誤認のなかったこと

(一)、前記委託契約の締結には、控訴人は、被控訴人の取締役として立ち会っている。

(二)、従って、控訴人は、被控訴人を営業主と誤認して取引をしてはいない。

ハ、右契約期間内に、仮に控訴人が被控訴人に金員を貸し付けたとしても、それは和田栄藏個人への貸金であって、被控訴人には、その返済義務はない。

2、控訴人の主張1のイないしハに対する認否

イ、控訴人の主張1のイを否認する。和田栄藏個人が控訴人から借り受けたこともない。即ち控訴人主張の金員は、被控訴人も、和田栄藏個人も、受け取っていない。

ロ、控訴人の主張1のロ及びハも否認する。

二、当審における新たな証拠の提出、援用、認否及び原判決書証拠摘示の訂正。≪省略≫

理由

一、請求原因(一)について

≪証拠省略≫を総合すると、次の事実が認められる。

イ、控訴人は、金井町農業協同組合(以下農協という)から、(1)昭和四三年七月三一日に三〇万円を弁済期同年一二月三〇日、利息ならびに遅延損害金日歩二銭六厘と定め、(2)、昭和四四年三月二二日に三〇万円を弁済期同年一二月三一日、利息ならびに損害金右(1)に同じと定めて借り受けた。

ロ、控訴人は、右のように借り受けた各金員を、各借り受けた日に、被控訴人の代表取締役でもある和田栄藏との間で、それぞれ同じ条件で返済を受ける約束をした上、被控訴人の職員でもある嶋元チヨに交付し、同人はこれを受領した。

ハ、右貸金は、被控訴人の帳簿に農協から直接に借り受けたものとして記載され、右イの(1)の貸金の利息及び同四四年七月三一日までの遅延損害金、ならびに(2)の貸金の利息及び同四五年七月三一日までの遅延損害金は、農協に支払われた。

ニ、前記ロの各消費貸借については、控訴人が被控訴人の取締役であったから、被控訴人の取締役会の承認が必要であったが、昭和四三年七月三一日の貸金については、同四四年二月二八日に開かれた被控訴人の株主総会に提出すべき決算報告書を審議するため、それ以前に開催された被控訴人の取締役会の承認を経ている。

以上の事実が認められ(る。)≪証拠判断省略≫

二、抗弁について

1、≪証拠省略≫を総合すると、次のイ、ロの事実が認められる。

イ、被控訴人は、搾油業を営んでいたが、それだけでは営業成績があがらないため、昭和四三年初ころ、代表取締役である和田栄藏個人に被控訴人の経営を委託し、同人は、被控訴人名義で自己の計算において事業をなし、同人から一箇年五万円を被控訴人に納入させることにしてはどうかとの案が持ちあがり、被控訴人と和田栄藏との間に、昭和四三年六月四日右と同趣旨の仮契約書が作成された。右仮契約書については、それを審議すべき取締役会の開催通知が取締役和田金次郎に届かず、同人缺席のまま取締役会が開催され、そのため右仮契約書は同人の氏名がないものであった。その後取締役会を数回開いて承認を求めたが、承認されるに至らず、内容について結論の出ないまま同四三年六月一二日から和田栄藏は、被控訴人名義をもって、ブロック製造等の営業の連絡やブロック製造機械の注文を始めてしまった。

ロ、被控訴人主張抗弁イのような内容の経営委託契約は、昭和四四年二月二八日に開かれ控訴人も専務取締役として出席した被控訴人の第二二回定時株主総会において三分の二以上の株式を有する株主の賛成を得て可決され、同時に契約の始期を同四三年一月一日に遡らせることも承認され、その結果同四四年三月中旬ころ被控訴人と和田栄藏との間に同旨の同年三月三一日付の契約書が作成された。

以上の事実が認められ(る。)≪証拠判断省略≫

2、ところで、被控訴人と和田栄藏との間の右経営委託契約は、右株主総会により右契約が承認された昭和四四年二月二八日に、その効力を生じたものというべきであって、株主総会で右契約の始期を昭和四三年一月一日に遡らせることの承認を得たからといってそれ以前に被控訴人について生じた債務は債権者において被控訴人の債務を免除するとか、和田栄藏において右債務を免責的に引受けることを承諾しないかぎり、遡って消滅するわけはないといわなければならないが、そのような被控訴人の債務消滅原因は、被控訴人において主張していない。

3、そうだとすると、控訴人の貸金のうち、(1)昭和四三年七月三一日の分はまだ被控訴人に対し貸し渡されたものと認めるのが相当であるけれども、第二二回株主総会後の(2)昭和四四年三月二二日の分は和田栄藏個人に貸したことになり、これを控訴人が借主を被控訴人と誤認するはずはなく、もし誤認して取引したとすれば、重大な過失があったものといわなければならない。

4、このように、抗弁は、(2)の貸金についてのみ理由があるが、(1)の貸金については失当であり、採用できない。

三、請求原因(二)について

予備的請求に対する当裁判所の判断は、原判決の説示する理由(原判決書九枚目裏一一行目から一〇枚目表六行目まで)と同一であるから、ここにこれを引用する。

四、以上の理由により、控訴人の本訴請求は、そのうち被控訴人に対し昭和四三年七月三一日付の貸金三〇万円とこれに対する同四四年八月一日から支払いずみまで日歩二銭六厘の割合による遅延損害金の支払いを求める部分は正当と認められるから、この限度でこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却すべきである。

五、従って控訴人の請求を全部棄却した原判決は一部不当であるから、これを右のとおり変更することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を、各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡松行雄 裁判官 唐松寛 木村輝武)

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